古い街はとりはらわれた
穴ぐらの闇をつかむ鐵骨
人工の曠野にポツネンのこされた
デパートのてっぺんに
黄色い月があがる
ふるさとを追われた
鼠群がゾロゾロ昇天してゆく
挿話
街は祭りで
空に花火がはじけていた
吹きっさらしの抽籤場で
私のくじは一匹の猿をひきあてた
赤いちゃんちゃんこを着た有難迷惑な景品を肩にのせて
私は歩き出した
大きく立ちはだかった男が首ふり手ふり
演説がはじまった
猿が頭をこずくので 私も群れの後に加わった
猿はするすると人々の肩から肩にとびうつり
彼等の内懐(うちぶところ)に手を伸ばし
何かをとり出して呑みこむ風だった
目を白黒させる顔つきがあまり珍妙なので
私は思わずふき出すところだった
しまいに彼は演説男のふところのものまで呑みこんでしまった
やつらの魂(たましい)です
猿はにやにや笑いながら耳許でささやいた
男が大きな體をすぼめるようにして叩頭した刹那
一陣の風吹き來たり
群集も男もトラックごと
紙屑といっしょにまき上げひっさらって 去った
空に花火が鳴っていて
猿が頭をこずくので 私は歩き出した
今回で「挿話」の章は終りです。
引き続き次号からは「默契」の章に突入します。
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[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]
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Profile : Takahashi, Hideki : 高橋秀樹
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ラベル:幽界通信
【関連する記事】
- 町田志津子の第一詩集「幽界通信」の作者本人による「あとがき」と「奥付」。
- 「秋分」 「彼岸」 並びに 北川冬彦による跋 (詩集「幽界通信」より)。
- 「西芳寺」 「三月堂」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「花」 「世」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「蝶」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「赤石」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「回歸」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「山襞」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「双子山」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「鴉」 「鵜」 「芽」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「雨夜」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「草」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「茨」 「幽界通信」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「改正道路」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「春」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「ある心象」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「默契」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「すずめ蛾」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「暗い海」 「遮断機」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「顏」 (詩集「幽界通信」より)。