2009年02月05日

「すずめ蛾」 (詩集「幽界通信」より)。

「すずめ蛾」 1/2。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。むせかえりながらふと覚めて
顔に掩いかかる邪魔ものをふり拂った
仰向けにもがいていたが
ぱたり起きかえると
一匹のすずめ蛾だ
彼はすが目でじろりねめまわして
云った
  この部屋には出口がない
  それはわしを不安にする
  そのうえお前の鼻腔(はな)にもぬけ道がない
  だいたい お前もよっぽど………
彼はちらり嘲笑ったようだ
  不安はわしをますます大きくする
  見ろ このていたらくを
彼が羽を動かすたびに
それは見る見るひろがって蝙蝠ほどになった
  きりぎりすならすり合わせて痩せもしようが
  わしの羽は厚すぎる
  かんだかい聲をふり上げて
  お涙ちょうだいの芝居より
  こっちがどんなに悲劇だか───



「すずめ蛾」 2/2。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。涙をこぼしながら身もだえするのだが
そんなことにほおかまいなしに
羽はばさばさひろがって
花瓶をころがし 私の膝につきあたり 胸の方まで伸びてくる
壁につきあたってたわんでいる
彼のまきもらす粉(こな)でもうもうの霧だ
私は奇妙な感覚に當惑した
窓があけられないこともないのだが
こいつの正体みとどけてやろうと
もう一度 眼を見すえた

とたんに私はむせ入り
大きくくしゃみしてしまった

暁の光が白く流れ
{てんしばん}に展(の)された
息子の小さいすずめ蛾は
老醜のはてを思わせた






 ⇒ ページをめくる。 ↓ 

続く 2つの詩、「鼠群」並びに「挿話」を読む。


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前の詩、「暗い海」並びに「遮断機」を読む。


[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]

[目次]



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ラベル:幽界通信
posted by (旧) hinden (まほまほファミリー) at 00:00| Comment(0) | TrackBack(3) | 幽界通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「暗い海」 「遮断機」 (詩集「幽界通信」より)。
Excerpt: 暗い海     堀割に 濁流はくねりあふれ 道のなかばを浸している
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Tracked: 2009-02-05 00:15

「幽界通信」の目次と小序。
Excerpt: 大体創作順に並んでいますが、はじめの 3篇は 中頃のものです。
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-02-05 00:16

「鼠群」 「挿話」 (詩集「幽界通信」より)。
Excerpt: 鼠群     古い街はとりはらわれた 穴ぐらの闇をつかむ鐵骨 人工の曠野にポツネンのこされた デパートのてっぺんに
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-02-07 03:28