堀割に
濁流はくねりあふれ
道のなかばを浸している
女は待っている
傘をさして佇んでいる
きのこのようにしゃがんでいる
濁流をみつめている
軒燈のくるめきをよぎり
しぶきに吹きよせられた虫が
手首にへばりついた
ちりちりと羽をふるわせたが
動かなくなった
ごうごうと水鳴り
しっぽを垂れた犬さえあらわれず
女達と羽蟻のむくろを残し
この世のものすべて流れ去った
交合のむなしさ
死の零
ふるえ 消えた
暗い海
波頭 空に打ちあがり
祈りのように
遮断機
警笛が鳴る
青が赤に變る
宙に吊り上っていたときは少々滑稽だが
それは重々しく時間を切断する
自由の飛翔に霞んだ
レールの空間も切断され
不気味な沈默にひそまる
群集は膨らみ
向う側の連中は
隙だらけの項(うなじ)をちらちらさせ
逃げてゆく
列車はごうごうと草木をなぎ倒し 中天に突入し
切断された時間も空間も
焦躁も安堵も 砂塵にまき上げられ
虚脱され 死ぬ
白い湯気の夢の中の
遮断機の非情
遮断機に罪の意識はない
罪そのものがある
レールは至るところに敷かれ
それは至るところで重々しく切断する
思想や愛情や議会や国家や
世界は切断され 虚脱され 死ぬ
⇒ ページをめくる。 ↓
次の詩、「すずめ蛾」を読む。
⇒ 戻る。 ↓
前の詩、「顏」を読む。
[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]
[目次]
----------------------
Profile : Takahashi, Hideki : 高橋秀樹
[events]
Ma_ho_Ma_ho_Family Top Page
ラベル:幽界通信
【関連する記事】
- 町田志津子の第一詩集「幽界通信」の作者本人による「あとがき」と「奥付」。
- 「秋分」 「彼岸」 並びに 北川冬彦による跋 (詩集「幽界通信」より)。
- 「西芳寺」 「三月堂」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「花」 「世」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「蝶」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「赤石」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「回歸」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「山襞」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「双子山」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「鴉」 「鵜」 「芽」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「雨夜」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「草」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「茨」 「幽界通信」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「改正道路」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「春」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「ある心象」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「默契」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「鼠群」 「挿話」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「すずめ蛾」 (詩集「幽界通信」より)。
- 「顏」 (詩集「幽界通信」より)。