2009年02月03日

「暗い海」 「遮断機」 (詩集「幽界通信」より)。

「暗い海」 1。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。暗い海
 
 
堀割に
濁流はくねりあふれ
道のなかばを浸している

女は待っている
傘をさして佇んでいる
きのこのようにしゃがんでいる
濁流をみつめている
軒燈のくるめきをよぎり
しぶきに吹きよせられた虫が
手首にへばりついた
ちりちりと羽をふるわせたが
動かなくなった

ごうごうと水鳴り
しっぽを垂れた犬さえあらわれず
女達と羽蟻のむくろを残し
この世のものすべて流れ去った
交合のむなしさ
死の零



「暗い海」 2 並びに 「遮断機」 1。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。海港の標識燈は胸まで浸り
ふるえ 消えた
暗い海
波頭 空に打ちあがり
祈りのように





遮断機
 
 
警笛が鳴る
青が赤に變る
宙に吊り上っていたときは少々滑稽だが
それは重々しく時間を切断する
自由の飛翔に霞んだ
レールの空間も切断され
不気味な沈默にひそまる

群集は膨らみ



「遮断機」 2/2。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。焦操と憂悶が足ふみならす
向う側の連中は
隙だらけの項(うなじ)をちらちらさせ
逃げてゆく

列車はごうごうと草木をなぎ倒し 中天に突入し
切断された時間も空間も
焦躁も安堵も 砂塵にまき上げられ
虚脱され  死ぬ

白い湯気の夢の中の
遮断機の非情
遮断機に罪の意識はない
罪そのものがある

レールは至るところに敷かれ
それは至るところで重々しく切断する
思想や愛情や議会や国家や
世界は切断され 虚脱され 死ぬ



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次の詩、「すずめ蛾」を読む。


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[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]

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posted by (旧) hinden (まほまほファミリー) at 00:01| Comment(0) | TrackBack(5) | 幽界通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「顏」 (詩集「幽界通信」より)。
Excerpt: 両の手で掩いかくしても眼は見てはならぬものをみつめようとし 口は不埒なことをわめこうとするので 私は顏を草原にふり棄てた
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-02-03 00:08

「幽界通信」の目次と小序。
Excerpt: 大体創作順に並んでいますが、はじめの 3篇は 中頃のものです。
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-02-03 00:10

「すずめ蛾」 (詩集「幽界通信」より)。
Excerpt: むせかえりながらふと覚めて 顔に掩いかかる邪魔ものをふり拂った 仰向けにもがいていたが ぱたり起きかえると 一匹のすずめ蛾だ 彼はすが目でじろりねめまわして 云った   この部屋には出口がない   ..
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-02-05 00:00

「暗い海」 「遮断機」 (詩集「幽界通信」より)。
Excerpt: 暗い海     堀割に 濁流はくねりあふれ 道のなかばを浸している
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Tracked: 2009-02-05 00:01

5. 地震翌日物語。「ひできのオープニングアクトと見知らぬ高校生たち。」の巻。
Excerpt: そんなこんなで暫定的に、以下の段取りにて。
Weblog: hinden (まほまほファミリー) (暫)
Tracked: 2011-03-19 15:08