2009年01月28日

「釣られた魚」 (詩集「幽界通信」より)。

「釣られた魚」。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。 子供はとくいげにバケツの中を示した。藻草のゆらぐ底で、土色をした小さな{まるた}が二匹、頭を寄せ会って、静かにえらを動かしてした。 
一匹は手水鉢に放した。 
残りの一匹は、となりの老婆にやったそうだ。老婆は網の上でピクピクはねるのを、火箸で押えつけて焼き、手掴みで食べたそうだ。 
夜、厠に立つと、生きのびたはずのが、白い腹を見せて浮いていた。陽をまともに受ける鉢の水は、煮えかえって、魚を殺したのだ。虫の音しげい草むらに棄てた魚は、ドロボー猫の腹をこやすだろう。 
子供は蚊屋の中で、大の字になり涎をたらして寝ている。 
血が温いか、冷めたいか、魚と人間の運命がちがうとすれば、それだけだ。 
神様が涎をたらすかどうか、それは私も知らない。





 ⇒ ページをめくる。 ↓ 

次の詩、「漁村風景」を読む。


 ⇒ 戻る。 ↓ 

前の詩、「まんぼう鮫」を読む。


[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]

[目次]



----------------------
Profile : Takahashi, Hideki : 高橋秀樹
[events]
Ma_ho_Ma_ho_Family Top Page
ラベル:幽界通信
posted by (旧) hinden (まほまほファミリー) at 23:43| Comment(0) | TrackBack(4) | 幽界通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

「まんぼう鮫」 (詩集「幽界通信」より)。
Excerpt: 渚にうち揚げられたまんぼう鮫 疊半じょう敷の体をむぞうさに投げ出して うらうらとした春の陽が 粗い灰褐色の膚におどる
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-01-28 23:51

「漁村風景」 (詩集「幽界通信」より)。
Excerpt: 潮を泳ぐままに尻尾をピーンとはねて 煮られた鰯が干してある とび出た眼玉 空をみつめ 蒸籠(せいろ)に押しあいへしあい 山がぐんと海に陥ちこんだ狭い道や 屋根の上 休暇の小學校の運動場まで
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-01-30 00:01

「漁村風景」 (詩集「幽界通信」より)。
Excerpt: 潮を泳ぐままに尻尾をピーンとはねて 煮られた鰯が干してある とび出た眼玉 空をみつめ 蒸籠(せいろ)に押しあいへしあい 山がぐんと海に陥ちこんだ狭い道や 屋根の上 休暇の小學校の運動場まで
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-01-30 00:01

「幽界通信」の目次と小序。
Excerpt: 大体創作順に並んでいますが、はじめの 3篇は 中頃のものです。
Weblog: hinden (まほまほファミリー)
Tracked: 2009-01-30 00:02