一匹は手水鉢に放した。
残りの一匹は、となりの老婆にやったそうだ。老婆は網の上でピクピクはねるのを、火箸で押えつけて焼き、手掴みで食べたそうだ。
夜、厠に立つと、生きのびたはずのが、白い腹を見せて浮いていた。陽をまともに受ける鉢の水は、煮えかえって、魚を殺したのだ。虫の音しげい草むらに棄てた魚は、ドロボー猫の腹をこやすだろう。
子供は蚊屋の中で、大の字になり涎をたらして寝ている。
血が温いか、冷めたいか、魚と人間の運命がちがうとすれば、それだけだ。
神様が涎をたらすかどうか、それは私も知らない。
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[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]
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Profile : Takahashi, Hideki : 高橋秀樹
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ラベル:幽界通信
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