2009年01月26日

「まんぼう鮫」 (詩集「幽界通信」より)。

「まんぼう鮫」 1/2。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。渚にうち揚げられたまんぼう鮫
疊半じょう敷の体をむぞうさに投げ出して
うらうらとした春の陽が
粗い灰褐色の膚におどる

まんほう鮫には尾ひれがない
この不恰好な魚が泳ぐ姿を
私は想像出来ないが
漁師は 時に
こいつが空中に飛び上って
ぴしっと海面を打つのを
見かけると云う
胴体だけの魚は
どこに弾みをつけて飛びはねるのか
それはまことに滑稽であり 悲壮でもある
まんぼう鮫のうす濁った眼は
雲一つない深い空をみつめている
魚は最後の瞬間にも眼を閉じることがないと云う事實に
私はいまさらのように慄然とした
平安と倦怠の生にあらあらしくとって代った死を
この眼はみつめている
「まんぼう鮫」 2/2。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。まんぼう鮫はまずいので
漁師はいくらかましな肉片だけをえぐりとり
あとは捨てて置くだろう
この眼は
鴎や鵜がつつきちらすまで
腐爛して原型をとどめなくなるまで
みつめつづけるだろう

向うの濱邊は海の観音祭でにぎわっている
料理を食べたり唄を歌ったりしている連中のなかにも
頭のないのや胴体のないのがうようよしている
しかし不具の身を飛翔させ
あえて海面を打つ者 幾人(いくたり)いよう
私もさしずめ手足のないほうだが
海面は打ちそこねても
最後の瞬間に大空を凝視出来ようか





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[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]

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posted : 2009/01/24 22:36:00





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posted by (旧) hinden (まほまほファミリー) at 23:59| Comment(0) | TrackBack(3) | 幽界通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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