疊半じょう敷の体をむぞうさに投げ出して
うらうらとした春の陽が
粗い灰褐色の膚におどる
まんほう鮫には尾ひれがない
この不恰好な魚が泳ぐ姿を
私は想像出来ないが
漁師は 時に
こいつが空中に飛び上って
ぴしっと海面を打つのを
見かけると云う
胴体だけの魚は
どこに弾みをつけて飛びはねるのか
それはまことに滑稽であり 悲壮でもある
まんぼう鮫のうす濁った眼は
雲一つない深い空をみつめている
魚は最後の瞬間にも眼を閉じることがないと云う事實に
私はいまさらのように慄然とした
平安と倦怠の生にあらあらしくとって代った死を
この眼はみつめている
漁師はいくらかましな肉片だけをえぐりとり
あとは捨てて置くだろう
この眼は
鴎や鵜がつつきちらすまで
腐爛して原型をとどめなくなるまで
みつめつづけるだろう
向うの濱邊は海の観音祭でにぎわっている
料理を食べたり唄を歌ったりしている連中のなかにも
頭のないのや胴体のないのがうようよしている
しかし不具の身を飛翔させ
あえて海面を打つ者 幾人(いくたり)いよう
私もさしずめ手足のないほうだが
海面は打ちそこねても
最後の瞬間に大空を凝視出来ようか
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[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]
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posted : 2009/01/24 22:36:00
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Profile : Takahashi, Hideki : 高橋秀樹
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ラベル:幽界通信
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