2009年02月23日

「鴉」 「鵜」 「芽」 (詩集「幽界通信」より)。

「鴉」。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。
 
 
海は赤く濁り
波は牙をむいて岸を噛んだ

母は一日中流木を拾っていた

置き去られた子は
むしむしする砂にまみれて
喉がかわくと晝顔の露を吸った
高い松の梢に鴉が群れて
がおがおと不吉に鳴き立てた

めずらしくうつくしい月夜だった
医者の白い扉は開かず
子供は死んだ

まぶしい海のてりかえしの中を
子供の柩はリヤカーに載せられて
かたかたと踊りながら
連れてゆかれた



「鴉」 2/2 並びに 「鵜」 1/2。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。私は砂の中に一枚の鴉の羽根を拾った






浜の石に男と女が坐っていた

互いの生活の重みを感じ合い
どうしょうもない愛情に かすかにほほえんでいた

波がからからと石を引いてゆく

廣い海面に一羽の鵜が
ぽっかり浮んでいた



「鵜」 2/2 並びに 「芽」 1/2。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。自在に泳ぎ
時々骨をふりたてて水にくぐった

残照は鵜のまわりを
圓光のようにとりまいた








潮はうねり
枯れた梢に青む貝殻の芽

私の心のくぼみにも
生命の芽がほとびていた
回想の夜の甘美なく
暁の祝福の予想もない
孤獨の苦汁に培われた
反逆の芽



「芽」 2/2。町田志津子の第一詩集「幽界通信」より。私はつねに裸身だが
むなしい贖罪の雪がふりつむので
その光をかすめていた

やがて
芽はぐんぐん伸びて
幹は濡れ
枝葉は陽にかがやくだろう
  花はおそらく咲かないし
  黄金(こがね)の果實も熟れないが
私のくぼみは狭いから
まばゆい葉叢をみつめつつ
自ら死の陶酔をえらぶだろう
破滅なき天の攝理に
復讐するだろう



町田志津子の第一詩集「幽界通信」の章 3。「赤石」。comment :

今回で「默契」の章は終りです。
引き続き次号からは「赤石」の章に突入します。



 ⇒ 戻る。 ↓ 

前の詩、「雨夜」を読む。


[町田志津子の第一詩集「幽界通信」]

[目次]



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posted by (旧) hinden (まほまほファミリー) at 02:34| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 幽界通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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